自治体・NPOの情報連携における避難行動要支援者の同意取得とプライバシー保護の実践
災害時における避難行動要支援者(以下、要支援者)への迅速かつ適切な支援には、自治体とNPOを含む地域関係機関間の情報共有が不可欠です。しかし、要支援者の氏名、住所、連絡先、必要な支援内容といった個人情報を共有・活用するにあたっては、本人の同意取得とプライバシー保護という重要な課題が伴います。これは、現場で活動する自治体職員やNPOにとって、常に留意すべき点です。
なぜ同意取得とプライバシー保護が重要なのか
災害時における個人情報の取り扱いは、個人の権利保護と、命を守るための情報活用という二つの側面を両立させる必要があります。 個人情報保護法は、個人の権利利益を保護することを目的としており、個人情報を第三者に提供する際には原則として本人の同意が必要と定めています。災害時においても、この原則は基本となります。 また、災害対策基本法に基づき市町村が作成する避難行動要支援者名簿についても、その作成や情報提供にあたっては、個人情報保護に配慮し、本人の同意を得ることが原則とされています(同法第49条の10、第49条の11)。
これらの法的背景に加え、何よりも重要なのは、要支援者やその家族との信頼関係を構築・維持するためです。情報がどのように共有され、誰が利用するのかが明確でなければ、不信感につながりかねません。同意を丁寧に取得し、プライバシーに配慮した情報管理を行うことは、円滑な連携と支援活動の基盤となります。
同意取得の実践における課題と対応策
同意取得は平時に行うことが基本ですが、様々な課題があります。
- 対象者の理解度: 要支援者の中には、制度や情報の取り扱いについて十分に理解することが難しい方、認知症等により意思表示が困難な方がいらっしゃいます。
- 家族の役割: 本人による同意取得が困難な場合、家族や後見人からの同意取得が必要となりますが、連絡が取りにくい場合や家族が高齢である場合もあります。
- 同意取得の手続き: 自治体が個別訪問や郵送で行うことが一般的ですが、多くの要支援者を対象とする場合、膨大な時間と労力を要します。NPOが日常的な活動の中で橋渡し役となることも考えられますが、同意取得の責任主体や手続きを明確にする必要があります。
- 災害発生時の対応: 災害発生後に初めて支援が必要になる方や、平時に同意を得ていなかった方への対応も必要になります。非常時においては、必ずしも書面での同意取得が容易ではありません。
これらの課題に対し、以下のような対応策が考えられます。
- 丁寧な説明: 制度の目的、共有される情報の内容、情報の共有先、情報がどのように活用されるのかを、要支援者や家族が理解しやすい言葉やツール(イラスト、多言語対応資料など)を用いて丁寧に説明します。
- NPOとの連携: NPOが日常的な地域活動を通じて要支援者と関係を構築し、同意取得の必要性について事前に情報提供を行ったり、自治体と連携して同意取得をサポートしたりする役割が期待されます。
- 同意の柔軟な形態: 平時は書面による同意を原則としつつ、災害時など緊急を要する場合には、口頭や電話、または事後承諾といった柔軟な対応が必要となる場合もあります。ただし、その場合も記録を適切に残すことが重要です。
- 「みなし同意」の可能性: 災害対策基本法においては、市町村長が避難のために情報提供が必要と判断した場合、本人の同意が得られない場合でも提供できる規定(第49条の11第3項)がありますが、これは限定的な場合に限られ、原則は同意が必要です。この「みなし同意」規定の解釈と運用については、自治体内で明確な基準を設ける必要があります。
プライバシー保護の実践と自治体・NPO間の情報連携
同意を得て情報を共有する場合でも、プライバシー保護のための適切な管理が求められます。
- 共有範囲の限定: 共有する情報は、避難支援のために真に必要最小限の情報に限定すべきです。不要な情報まで含めたり、支援目的以外に利用したりすることは厳禁です。
- 共有先の限定: 情報にアクセスできるのは、災害時における要支援者支援に直接携わる関係者(自治体職員、連携するNPO職員、指定されたボランティアリーダーなど)のみとし、アクセス権限を厳格に管理する必要があります。
- 情報管理の方法: 紙媒体で情報を管理する場合は、施錠可能な場所での保管や持ち出しルールの徹底が必要です。デジタルで管理する場合は、パスワード設定、暗号化、アクセスログの監視、持ち出し端末の管理(紛失・盗難対策)など、高度なセキュリティ対策が求められます。
- 情報共有協定・連携協定: 自治体と連携するNPOやその他の関係機関との間で、情報共有に関する協定や覚書を締結し、共有する情報の種類、利用目的、管理方法、責任体制、秘密保持義務、協定違反時の対応などを明確に定めることが有効です。これにより、関係者間の認識を統一し、責任の所在を明確にできます。
- 役割分担の明確化: 誰がどの情報を収集し、誰が誰に提供し、誰がどのように活用するのか、役割分担を明確にすることが、情報の適切な流れと管理につながります。特に、NPOが受け取った情報をさらに別の主体と共有する場合のルールを定めておく必要があります。
- 情報漏洩時の対応: 万が一、情報漏洩が発生した場合の報告体制、対応手順、再発防止策について、事前に自治体とNPO間で取り決めておくことが重要です。
結論
避難行動要支援者支援における情報共有は、迅速な支援実現のために不可欠ですが、同意取得とプライバシー保護は、支援活動の正当性と信頼性を担保する上で極めて重要な要素です。これらは、単なる法的な手続きではなく、要支援者一人ひとりの尊厳に関わる問題として捉える必要があります。
自治体とNPOが連携して、平時からの丁寧な説明による同意取得、個人情報保護に関する共通認識の醸成、そして情報共有協定の締結や適切な情報管理体制の構築に取り組むことが求められます。現場の実情に合わせた柔軟な対応も必要ですが、その根幹には、要支援者の権利を尊重し、信頼関係を築くという基本姿勢が不可欠です。この取り組みを通じて、災害時にも揺るぎない、実効性のある要支援者支援体制を地域で構築していくことが期待されます。