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現場で活かす個別避難計画:自治体・NPOが連携して進める策定と情報共有

Tags: 個別避難計画, 自治体連携, NPO連携, 情報共有, 避難行動要支援者, 実践事例

はじめに:個別避難計画の重要性と現場の課題

大規模災害発生時、自力での避難が困難な方々(避難行動要支援者)を安全に避難させるためには、平時からの備えが不可欠です。その中心となるのが「個別避難計画」の策定です。個別避難計画は、対象者一人ひとりの状況に応じて、いつ、誰が、どのように避難を支援するかを具体的に定めたものであり、実効性のある避難支援を行う上で極めて重要になります。

しかしながら、現場においては、対象者の掘り起こしから計画策定、そして策定後の関係者間での情報共有・連携に至るまで、様々な課題に直面しています。特に、自治体と地域のNPOやボランティア団体、民生委員などが連携して計画を進める際には、情報共有の仕組みや役割分担の明確化が求められます。

この記事では、個別避難計画を「現場で活きる」ものとするために、自治体とNPOがどのように連携して策定を進め、効果的に情報を共有していくかについて、実践的なポイントを解説いたします。

個別避難計画とは何か、なぜ必要か

個別避難計画は、災害対策基本法に基づき、市町村が作成する避難行動要支援者名簿に登録された方々のうち、同意を得られた方を対象に策定される計画です。計画には、対象者の氏名、連絡先、避難支援を必要とする理由、緊急連絡先、そして最も重要な「避難支援の方法」や「避難場所」などが具体的に記載されます。

この計画が必要とされる理由はいくつかあります。まず、要支援者の多様なニーズに対応するためです。高齢、障がい、傷病など、個々人の状況は異なり、必要な支援方法も異なります。画一的な支援ではなく、個別計画に基づいたきめ細やかな対応が求められます。次に、迅速かつ確実な避難支援を実現するためです。災害発生という緊急時において、誰が、どのような手段で、どこへ誘導するかがあらかじめ定められていれば、混乱を最小限に抑え、迅速な避難行動につながります。最後に、関係機関との連携を円滑にするためです。計画に支援に関わる関係者(自治体職員、消防団員、民生委員、自主防災組織、近隣住民、NPO等)が明記され、支援内容が共有されていれば、多機関による coordinated な支援が可能になります。

計画策定における自治体・NPOの役割分担と連携のポイント

個別避難計画の策定は、自治体が主体となって進めますが、対象者の状況把握や意向確認、さらには計画策定後の見守りや避難支援の実施には、地域の NPO や民生委員、自主防災組織など、地域に根差した活動を行う方々との連携が不可欠です。

役割分担の例

連携のポイント

  1. 平時からの関係構築: 災害時だけでなく、日頃から自治体職員とNPO等の関係者が顔の見える関係を築き、互いの活動内容や強みを理解しておくことが重要です。合同での研修会や意見交換会を定期的に開催することが有効です。
  2. 情報共有の円滑化: 対象者の個人情報を含むため、情報の取り扱いには細心の注意が必要です。共有する情報の範囲、方法、セキュリティ対策について、事前に明確なルールを定めます。後述する情報共有ツールの活用も検討します。
  3. 計画策定ノウハウの共有: NPO職員やボランティアが計画策定を支援する際、対象者からどのような情報を引き出すか、どのような点に注意するかなど、共通のノウハウや様式の記入方法を学ぶ研修を実施します。自治体が持つ専門知識(福祉、防災など)を共有することが役立ちます。
  4. 役割の明確化と負担軽減: 誰がどの対象者の計画策定を担当するか、具体的な訪問スケジュールはどうするかなど、役割分担を明確にします。NPO等の負担が過大にならないよう、自治体側が調整役となり、必要に応じて謝礼等の支援も検討します。

策定した計画の効果的な情報共有・共有ツール

個別避難計画は、策定して終わりではありません。災害時に実際に支援にあたる関係者が必要な情報にアクセスできなければ意味がありません。効果的な情報共有は、連携の実効性を高める鍵となります。

情報共有における課題

情報共有のツールと工夫

近年、これらの課題を解決するために、様々なデジタルツールの活用が進められています。

  1. クラウド型情報共有システム:

    • 自治体や関係NPO等が共通でアクセスできるクラウド上のデータベースやシステムを導入し、個別避難計画の情報を一元管理します。
    • 対象者の状況の変化に応じてリアルタイムでの更新が可能になります。
    • アクセス権限を設定することで、個人情報保護に配慮しながら、必要な関係者が必要な情報にいつでもアクセスできるようになります。
    • 例: 福祉分野で使用されている情報共有システム、自治体独自のシステム、地理情報システム(GIS)との連携など。
  2. GIS(地理情報システム)の活用:

    • 避難行動要支援者の居住地、必要な支援内容、避難経路、避難場所などを地図情報と結びつけて管理します。
    • 災害発生時に、特定の地区の要支援者リストや必要な支援内容を視覚的に把握することができます。
    • 支援ルートの検討や、どのNPOがどのエリアを担当するかといった作戦立案にも役立ちます。
  3. 簡易的なツールの活用:

    • 高度なシステム導入が難しい場合でも、共有フォルダ(クラウドストレージ)、特定の関係者間でのみ利用するSNSグループ、または更新頻度を定めたリスト形式での情報共有など、身近なツールを活用することも考えられます。
    • ただし、個人情報の取り扱いについては、ツールに関わらず厳格なルールが必要です。

どのようなツールを選択するにしても、重要なのは「誰が」「いつ」「どのような情報に」アクセスできるのかを明確にし、関係者間でそのルールを周知徹底することです。また、ツールの操作に不慣れな関係者もいることを想定し、分かりやすいマニュアル作成や操作説明会を実施するなど、丁寧なフォローアップが欠かせません。

計画策定・共有における課題と解決策

個別避難計画の策定・共有を進める上では、情報連携以外にもいくつかの課題が挙げられます。

これらの課題解決には、自治体とNPOが一方的な依頼関係ではなく、対等なパートナーとして互いの強みを活かし合い、知恵を出し合う姿勢が不可欠です。定期的な協議の場を設け、現場で感じている課題や成功事例を共有し、共により良い方法を模索していくことが重要です。

結論:個別避難計画を通じた連携強化

個別避難計画の策定とそれを支える情報共有・連携は、災害時における避難行動要支援者の安全確保のために極めて重要な取り組みです。この取り組みを実効性のあるものとするためには、自治体が主導しつつも、地域の事情に精通し、きめ細やかな対応が可能なNPOやボランティア団体との密接な協働が不可欠です。

平時からの顔の見える関係構築、役割分担の明確化、そして個人情報に配慮した効果的な情報共有ツールの活用は、この連携を成功させるための重要な要素となります。特に、デジタルツールを活用した情報共有は、情報の迅速な更新と関係者間でのタイムリーな共有を可能にし、災害時の対応力を格段に向上させることが期待されます。

もちろん、デジタルツールはあくまで手段であり、最も大切なのは、要支援者一人ひとりに寄り添い、その命を守りたいという関係者共通の強い思いと、それを実現するための日々の地道な連携努力にあります。個別避難計画の策定・共有を進めるプロセスそのものが、地域の多機関連携を強化し、災害に強い地域社会を築く一歩となるのです。

私たちは、このプラットフォームを通じて、自治体とNPOの皆様が個別避難計画の実践において直面する課題を共有し、解決に向けたヒントや成功事例を得られる場を提供していきたいと考えております。共に学び、連携を深め、誰一人取り残さない避難支援体制を構築していきましょう。