自治体・NPOが連携する外国人住民への災害支援:多言語対応の実践
災害時における外国人住民支援の重要性
近年、日本に在住する外国人住民の数は増加傾向にあります。彼らもまた、災害が発生した場合、被災のリスクに晒される要配慮者となり得ます。しかし、多くの外国人住民は、言語の壁、文化・習慣の違い、日本の防災情報への不慣れ、地域コミュニティからの孤立など、様々な要因から災害情報を適切に入手したり、避難行動を円滑に行ったりすることが困難な場合があります。
このような状況において、自治体やNPOが連携し、外国人住民のニーズに即した災害支援、特に多言語対応を強化することは喫緊の課題です。適切な支援体制がなければ、外国人住民が災害発生時に孤立し、被害が拡大する可能性があります。本稿では、外国人住民が災害時に直面する課題を確認し、自治体とNPOが連携して実践できる多言語対応を中心とした支援策について解説します。
外国人住民が災害時に直面する課題
外国人住民が災害時に直面する主な課題は以下の通りです。
- 言語と情報の壁: 災害情報、避難指示、生活情報などが日本語のみで提供される場合が多く、正確な情報をタイムリーに入手することが極めて困難です。
- 日本の防災システムへの不慣れ: 災害の種類に応じた適切な避難行動や、日本の避難所運営に関する習慣(共同生活のルール、物資配分の方法など)を知らない場合があります。
- 文化・習慣の違い: 避難所での集団生活や、特定の食習慣、宗教的慣習などが日本の避難所環境と合わない場合があります。
- 地域コミュニティからの孤立: 地域住民との日常的な交流が少ない場合、災害時に必要な支援や情報が得られにくくなります。
- 在留資格や経済状況への不安: 災害発生後、住居や仕事を失った場合の在留資格への影響、経済的な困窮に対する情報や支援が不足していると感じることがあります。
これらの課題は複合的に絡み合い、外国人住民の避難行動やその後の生活再建をより困難なものとします。
自治体・NPO連携による支援の方向性
外国人住民への災害支援を効果的に行うためには、自治体とNPOがそれぞれの強みを活かし、緊密に連携することが不可欠です。
自治体の役割: 自治体は、地域全体の防災計画策定、災害情報の収集・発信、避難所の設置・運営、公的な支援制度の提供といった行政としての責任を担います。外国人住民への対応として、防災情報の多言語化、多言語対応可能な避難所の指定、災害時多言語支援センターの設置・運営などが挙げられます。
NPOの役割: 地域で外国人住民と日常的に関わりのあるNPOは、彼らの言語、文化、コミュニティネットワークに関する深い理解を持っています。平時からの相談支援や日本語教育を通じて、外国人住民との間に信頼関係を築いています。災害時においては、きめ細やかな情報伝達、避難誘導、避難所での通訳・生活支援、被災後の相談支援など、現場での実践的なサポートを担うことができます。
連携によるメリット: 自治体とNPOが連携することで、自治体はNPOが持つ現場の知見やネットワークを活用でき、NPOは自治体の持つ公的な情報やリソースにアクセスできます。これにより、より多くの外国人住民に、彼らのニーズに合った適切な支援を届けることが可能になります。
多言語対応の実践例
多言語対応は、外国人住民への災害支援において最も基本的な要素の一つです。以下に具体的な実践例を挙げます。
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多言語での情報発信:
- 災害発生時の緊急情報(避難指示など)は、やさしい日本語、英語、中国語、韓国語など、地域に多い言語で迅速に発信する必要があります。自治体のウェブサイト、SNS、広報誌、防災アプリなどを活用します。
- NPOは、日頃から利用しているSNSグループやメーリングリスト、対面でのコミュニケーションを通じて、よりパーソナルな形で情報を補足・伝達できます。
- プッシュ型の情報伝達手段(防災アプリの多言語対応プッシュ通知など)の活用も有効です。
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多言語対応可能な避難所の確保と運営:
- 指定避難所の一部を、多言語での情報提供、通訳ボランティアの配置、文化・宗教に配慮したスペースの確保などが可能な避難所として指定することが考えられます。
- 避難所内の案内表示や基本的なルール説明なども多言語化します。
- NPO職員や多言語対応可能なボランティアが、避難所での生活オリエンテーションや相談対応を行います。
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災害時多言語支援センターとの連携:
- 自治体や国際交流協会などが設置する災害時多言語支援センターは、多言語での情報収集・提供、通訳派遣の調整、相談対応などを集中的に行う拠点となります。
- 地域NPOは、このセンターとの連携を密にし、現場のニーズを伝えたり、センターからの情報を地域コミュニティに伝えたりする役割を担います。
- センターに登録された通訳・翻訳ボランティアとの連携も重要です。
連携を強化するための具体的なステップ
自治体とNPOが多言語対応を含む外国人住民への災害支援連携を強化するためには、平時からの準備が重要です。
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関係機関のリストアップと役割分担の検討:
- 地域で外国人支援に関わる自治体の部局(国際課、防災課、福祉課など)、国際交流協会、NPO、社会福祉協議会、学校、企業、宗教団体などを洗い出します。
- それぞれの組織が災害時にどのような役割を担えるか、話し合いを通じて整理します。
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定期的な情報交換と顔の見える関係づくり:
- 災害時だけでなく、平時から定期的に会議や研修の機会を設けます。
- 互いの活動内容を理解し、担当者レベルで顔の見える関係を構築します。これにより、災害発生時のスムーズな連携が可能になります。
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合同での研修や訓練の実施:
- 外国人住民を対象とした防災講座や避難訓練を合同で企画・実施します。外国人住民が参加しやすいよう、内容や広報を工夫します。
- 自治体職員、NPO職員、ボランティアを対象に、異文化理解や災害時多言語支援に関する研修を行います。
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情報共有プラットフォームの活用検討:
- 災害時における外国人住民に関する情報(安否確認、ニーズ、避難状況など)を関係機関間で共有するための仕組みを検討します。
- 既に自治体や他のNPOが活用しているシステムや、新たに導入可能なツールについて、現場のニーズを踏まえて検討を進めます。個人情報の取り扱いには十分な配慮が必要です。
結論
外国人住民への災害支援における多言語対応は、彼らの安全確保と円滑な避難・生活再建のために不可欠な要素です。この課題に取り組むためには、自治体の持つ公的リソースと、地域NPOが持つ現場の知見・ネットワークとの緊密な連携が鍵となります。
平時からの関係構築、役割分担の明確化、多言語での情報発信体制の整備、多言語対応可能な避難所の準備、そして実践的な合同研修や訓練の実施は、連携を強化し、災害発生時の対応力を高めるための重要なステップです。
今後も増加が見込まれる外国人住民に対して、誰一人取り残さない災害支援体制を構築するために、自治体とNPOはそれぞれの専門性を尊重し合い、協働の取り組みをさらに進めていくことが求められます。