災害時要配慮者支援における福祉専門職・施設との連携ポイント
災害時要配慮者支援における福祉専門職・施設との連携ポイント
大規模災害発生時、特に支援が必要となる要配慮者の方々への対応は、自治体やNPOにとって重要な課題です。これらの要配慮者の方々は、日頃から地域の福祉サービスを利用している場合が多く、ケアマネージャー、ホームヘルパー、相談支援専門員といった福祉専門職や、利用している福祉施設が、その方の状況やニーズに関する詳細な情報を把握しています。
災害時において、自治体やNPOがこれらの福祉専門職や福祉施設と連携することは、迅速かつ適切な支援を行う上で不可欠です。しかし、平時からの連携が十分に構築されていない場合、災害発生時に必要な情報が共有されなかったり、役割分担が不明確になったりといった課題が生じがちです。
本稿では、災害時における要配慮者支援の質を高めるために、自治体・NPOが福祉専門職・施設とどのように連携すべきか、そのポイントを解説します。
なぜ福祉専門職・施設との連携が重要なのか
福祉専門職や福祉施設は、日頃から要配慮者の方々と継続的な関係を築いています。そのため、以下のような点で災害時支援において重要な役割を担う可能性があります。
- 個別の状況把握: 日常生活における身体状況、認知機能、コミュニケーション方法、必要な医療的ケア、服薬状況、アレルギー、性格、避難場所への意向など、個別具体的な情報を把握しています。これは、個別避難計画の策定や、災害時のきめ細やかな支援において非常に貴重な情報となります。
- 信頼関係: 要配慮者やその家族との間に信頼関係が構築されているため、災害時という混乱した状況下でも、情報伝達や避難誘導がスムーズに進む可能性があります。
- 専門的な知見: 障がいや疾病に関する専門的な知識を持っており、それぞれのニーズに応じた適切な対応やケアを提供できます。
- 地域ネットワーク: 地域内の他の福祉サービス事業者や医療機関、地域の民生委員などとのネットワークを持っている場合があります。
これらの情報や能力を自治体やNPOが活用できれば、より多くの要配慮者の方々に、そのニーズに合った支援を迅速に届けることが可能になります。
平時からの連携促進策
災害発生時に効果的な連携を行うためには、平時からの関係構築と準備が不可欠です。
- 連絡会・協議会の設置・参加: 自治体やNPOが主催または参加する形で、地域内の福祉専門職や福祉施設向けの連絡会や協議会を定期的に開催・参加し、顔の見える関係を構築します。ここでは、災害時の課題や連携の必要性について共通認識を持つ機会とします。
- 情報共有に関するルールの検討: 災害発生時にどのような情報を、誰が、どのような手段で共有するかについて、事前にルールやプロトコルを検討します。個人情報の取り扱いには十分配慮しつつ、災害時における例外的な情報共有の必要性についても関係者間で認識を共有しておくことが重要です。可能な範囲で、個人情報保護に配慮した上で、要配慮者の同意を得た形での情報共有方法(例えば、災害時専用の緊急連絡先リスト、同意済みの個別避難計画の共有範囲など)について検討します。
- 合同研修・訓練の実施: 自治体職員、NPOスタッフ、福祉専門職、福祉施設職員が参加する合同の研修や避難訓練を実施します。これにより、お互いの役割や災害時の対応について理解を深め、連携の手順を確認できます。要配慮者役を担っていただくなど、実践的な訓練を行うことも有効です。
- 地域資源情報の共有: 自治体やNPOが把握している地域の要配慮者に関する全体的な情報(個人が特定されない範囲で)、地域の避難所情報、避難経路の課題などと、福祉専門職・施設が持つ個別の利用者情報を、適切に紐づける方法や共有の可能性について検討します。
- 連携協定の締結: 必要に応じて、自治体やNPOと個別の福祉施設、あるいは地域の福祉関係団体との間で、災害時における支援協力や情報共有に関する連携協定を締結することも有効です。
災害発生時の連携
平時の準備に基づき、災害発生時には以下の点に留意して連携を進めます。
- 迅速な情報伝達: 自治体やNPOから福祉専門職・施設へ、災害発生、避難情報、地域の被害状況などに関する情報を迅速に伝達します。平時に定めた複数の連絡手段(電話、FAX、メール、SNSグループ、災害情報共有システムなど)を活用します。
- 安否確認・状況把握への協力: 福祉専門職・施設が把握している要配慮者の方々の安否確認や自宅での状況把握について、自治体やNPOと連携して取り組みます。日頃から訪問している専門職だからこそ可能な安否確認の側面もあります。
- 避難支援における役割分担: 避難が必要な要配慮者の方について、誰がどのように避難を支援するか、事前に検討した役割分担に基づき連携します。福祉施設の送迎車両の活用や、専門職による付き添いなども連携の対象となります。
- 福祉避難所との連携: 福祉施設が福祉避難所として指定されている場合、自治体と施設、そして必要に応じてNPOや他の福祉専門職が連携し、スムーズな開設・運営、対象者の受け入れを進めます。一般避難所から福祉避難所への移動支援などにおいても連携が重要です。
- ニーズ情報の共有と対応: 避難所や在宅避難されている要配慮者の方々の状況や必要な支援(医療、介護、福祉サービス、物資など)に関する情報を、福祉専門職・施設から自治体やNPOに提供してもらい、連携して対応にあたります。
連携を成功させるためのポイント
福祉専門職・施設との連携を円滑に進めるためには、以下のポイントが重要です。
- 共通理解の促進: 災害時における要配慮者支援の目標と、それぞれの組織・専門職の役割や限界について、お互いに理解を深めます。
- 柔軟なコミュニケーション: 災害時は状況が刻々と変化するため、平時に定めた方法に固執せず、柔軟な情報交換と連携を心がけます。
- 互いの専門性の尊重: 福祉専門職や施設の専門性を尊重し、彼らの知見を最大限に活かすような連携体制を築きます。
まとめ
災害時における要配慮者支援は、自治体やNPO単独で完結するものではありません。日頃から要配慮者の方々と密接に関わっている福祉専門職や福祉施設との連携は、その支援の質と迅速性を向上させるために極めて重要です。
平時からの顔の見える関係づくり、情報共有のルール検討、合同訓練などを通じて連携の基盤を築き、災害発生時には、迅速な情報伝達と、それぞれの専門性を活かした役割分担による協働を進めることが求められます。この連携強化が、地域の要配慮者の方々を災害から守るための大きな力となります。
災害弱者支援プラットフォームでは、このような自治体・NPO間の情報共有・連携を促進するための情報を提供してまいります。