災害時、要配慮者への効果的な声かけとコミュニケーション:自治体・NPOが連携して行う支援の質向上
災害時における要配慮者への声かけとコミュニケーションの重要性
災害発生時、避難行動要支援者の方々は、情報が錯綜する中で大きな不安や混乱を感じています。適切な避難やその後の生活再建を支援するためには、単に物資を届けたり場所へ誘導したりするだけでなく、一人ひとりの状況やニーズを正確に把握し、寄り添うコミュニケーションが不可欠です。自治体の職員、地域のNPO職員やボランティアといった現場で活動する方々にとって、要配慮者の方々と信頼関係を築き、必要な情報を引き出し、安心を提供するコミュニケーションスキルは、支援の質を大きく左右する要素となります。
本記事では、災害時という特殊な状況下での要配慮者への効果的な声かけとコミュニケーションの基本、そして自治体とNPOが連携してこれらのスキルや情報を共有することの重要性について解説します。
コミュニケーションの基本原則:安心を届けるために
災害発生直後や避難所、あるいは自宅など、要配慮者の方が置かれている状況は様々です。どのような状況においても共通するコミュニケーションの基本原則があります。
1. 落ち着いたトーンと分かりやすい言葉で
災害時は誰もが緊張し、不安を感じています。支援者自身が落ち着いた態度で接することが、相手に安心感を与えます。専門用語や複雑な言い回しは避け、小学生にも理解できるような平易な言葉を選びましょう。ゆっくりと、聞き取りやすい声で話すことも重要です。
2. 相手の状況を理解しようとする姿勢
身体的な疲労、精神的なショック、持病の影響、認知機能の低下など、要配慮者の方の状況は多岐にわたります。話しかける前に、まずは相手の様子を観察し、その方の状態に配慮した声かけを心がけてください。例えば、耳が聞こえにくい方には筆談や身振り手振りを活用する、混乱している方には落ち着くまで待つ、といった配慮が求められます。
3. 一方的な説明ではなく、対話を重視する
必要な情報を伝えることも重要ですが、まずは相手の話を聞くことから始めましょう。「何か困っていることはありますか」「今、どのような状況ですか」など、相手が自身の状況を話せるような問いかけをします。すぐに解決策を示すのではなく、相手の言葉に丁寧に耳を傾ける姿勢が、信頼関係の第一歩となります。
具体的な声かけと傾聴のポイント
声かけのポイント
- 最初の一声: 「こんにちは、〇〇です。△△(自治体名/NPO名)から来ました。何かお困りではありませんか。」と、所属と名前を名乗り、目的を簡潔に伝えます。
- 状況確認: 安否確認であれば「お怪我はありませんか」、避難が必要か確認するなら「今の場所にいて安全ですか、避難所へ移動しますか」など、具体的な状況について尋ねます。
- ニーズの聞き取り: 「今、一番必要なものは何ですか」「何か手助けできることはありますか」と、具体的なニーズを引き出します。漠然とした問いかけより、「食べ物はありますか」「必要な薬はありますか」のように具体例を挙げる方が答えやすい場合もあります。
- 選択肢の提示: 可能であれば、支援の選択肢を具体的に提示します。「Aの避難所とBの避難所があります」「今すぐの移動と、もう少し様子を見るのと、どちらが良いですか」など、ご本人が自分で判断できるような問いかけを心がけます。
傾聴のポイント
- 丁寧に耳を傾ける: 相手が話している間は、話を遮らず、最後まで聞きます。相槌を打ったり、うなずいたりしながら、関心を持って聞いていることを示します。
- 感情を受け止める: 災害の体験や不安について語る方もいます。必ずしも具体的な解決策を示せなくても、「それは大変でしたね」「怖い思いをされましたね」など、相手の感情に寄り添う言葉をかけることで、安心感を与えることができます。
- 非言語コミュニケーション: 優しい表情、相手に体を向ける、適度なアイコンタクトなど、言葉以外の要素も信頼関係構築に大きく影響します。
自治体・NPO連携によるコミュニケーション能力向上と情報共有
要配慮者支援に携わる自治体職員やNPO職員、ボランティアが、共通認識を持ってコミュニケーションに臨むことは、支援の質を高める上で非常に重要です。
- 研修・事例共有: 自治体とNPOが合同で、要配慮者へのコミュニケーションに関する研修を実施したり、現場での成功事例や困難事例を共有したりすることで、組織全体のスキルアップに繋がります。特に、障がいの種類や高齢者の状態に応じた具体的な声かけや配慮のポイントは、実践的な学びとなります。
- 情報共有のガイドライン: コミュニケーションを通じて得られた要配慮者の状況やニーズに関する情報は、その後の適切な支援に繋げるために、関係者間で共有される必要があります。しかし、同時に個人のプライバシー保護も重要です。どのような情報を、誰と、どのような方法で共有するかについて、自治体とNPOが事前にガイドラインを定めておくことで、現場での判断に迷いがなくなり、かつ個人情報保護への配慮も徹底できます。例えば、「安否確認、健康状態の急変、特に必要な支援(薬、介助等)」といった共有すべき情報の種類を明確にし、共有範囲を最小限に留めるといった取り決めが考えられます。
- 記録と引き継ぎ: コミュニケーション内容や把握したニーズ、対応状況を記録し、担当者が変わってもスムーズに引き継ぎができる体制を整えることも重要です。自治体とNPO間で共通の記録様式や情報共有システムを導入することも有効です。
まとめ
災害時における要配慮者への効果的な声かけとコミュニケーションは、単なる情報伝達の手段ではなく、不安な状況にある方々に安心感を提供し、個別のニーズに基づいた適切な支援を届けるための土台となります。自治体、NPO、そして地域の支援者が、これらの基本原則を理解し、具体的なスキルを身につけること、そして現場で得られた情報や知見を組織間で連携して共有・活用することが、災害弱者支援の質を向上させる鍵となります。平時からの共同研修や情報共有の仕組みづくりを進めることは、いざという時の円滑な支援に繋がる重要な備えと言えます。